2012年02月12日

脱税と聞いて飛んできました:マネーロンダリング入門 (橘 玲)


Money Laundering - Dollars / Images_of_Money


仕事の関係で来年度からハワイで働くことになった。

ハワイというと南国のリゾート地である。旅行で行くには素晴らしいところであるものの、仕事でいくとなると物価も高いし、文化や言語も異なり、それなりに大変なことが多い。しかも、いろいろとややこしい問題がでてくる。中でも特に面倒なのが税金である。

私の場合、少なくともハワイへ1年以上滞在する予定で、給料はドルで支払われる。そうなると、日本の税制では「非居住者」扱いとなるようだ。「非居住者」となれば、基本的には日本に税金を支払わなくてよくなる (日本で所得があれば、その分は日本に税金を払うらしい)。そして、日本では「非居住者」になると急に証券会社から嫌われる。というのも、ほとんどの証券会社では税金処理が面倒なためか、「非居住者」が口座をもつことを禁止している。したがって、株や債権、投資信託といった証券を保有したならば、渡米する前にそれらをすべて処分しないといけない。中には非居住者の口座の維持を認めている証券会社があったものの、「売却は可能だが、購入はできない」と言われてしまった。

なぜ「非居住者」となるだけで、こんな扱いになるのだろうか。ちょっと考えてみると、そのナゾがすぐに解ける。先ほども言ったように、「非居住者」は日本へ税金を払わなくてよい。逆にいえば、日本で税金を払いたくなければ非居住者となればよいのだ。とはいえ私の場合はハワイへいくため、アメリカへ税金を払う義務が生じる。アメリカの税制はかなり厳格なようで、税金の徴収には時効というものが存在しないらしい。そのため、脱税に対しての懲罰はかなり厳しい。しかし、もし私がアメリカではなく、モナコやカリブ海の島々といった税制の安い国へと行った場合はどうなるだろうか。なんと、その場合はほとんど税金を払わなくてよくなってしまうのだ。しかも合法的に。最近では日本でもいろいろと規制を厳しくしているようだけれども、私でも思いつくくらいなのだから、昔のお金持ちがこの仕組みを使用していたとしてもなんら不思議ではない。

そんな富裕層の税金対策について、以下に本書を基にみてみよう。


本書は、カシオの詐欺事件、ライブドア事件、北朝鮮への経済制裁といった、具体例を用いながらマネーロンダリングの仕組みを解説する内容である。マネーロンダリングについては後で詳しく述べるとして、ここでキーワードとなるのが税金である。例えば、超レアモノのあるカードを持っていたとしよう。そのカードを友達に1万円で売ったとする。まじめに扱うならこの金額を税務署に申請して、きちんと税金を納めないといけないものの、数万円程度なら税制的に特に問題ないはずだ。しかし、もし友達が石油王もびっくりするほどの超大金持ちで、「どうしてもこのカードが欲しいから1億円で譲ってくれ」とせまられると話は急にややこしくなる。ありえない話かもしれないものの、実際に考えてみると意外と楽しい。

さて、その友達が1億円をキャッシュで渡されたら、あなたはどうするだろうか。

そのまま銀行に預ければ、間違いなく税務署の目にとまり詰問されるだろう。そこで「友達にカードを売ったのです」と説明すれば、「なら雑所得ですね。雑所得なら50%の税金を納める必要がありますから、5000万円を税金として納付してください」と言われるだろう。せっかく1億円で売れたと思ったら、日本国に5000万円も納めないといけないのだ。いっぱい稼いだ人がたくさん税金を払うのは当たり前だ、と思う人はそれでもいい。しかし、これを理不尽だと感じるならば、ちょっとでも税金を安くしようと考える気持ちも理解できるのではないだろうか。そして、お金持ちはいっぱい税金を払っているのかと思いきや、実はそんなことはない。きちんと裏道があるのだ。

最初の裏道は、マネーロンダリング、日本語に訳すと「資金洗浄」となる。上の例でみてみいこう。キャッシュで1億円もらった段階では、さすがの税務署もそれに気付きようがない。税務署が気付くのは、日本の銀行に資金が入金された時点である。本書によれば、日本の金融機関は犯罪捜査に協力する義務があるらしく、個人名義での資金のルートはすべて筒抜けなのだそうだ。なので、突然、銀行の個人口座に1億円もの大金が舞い込んでくると、犯罪ではないかと疑われ、御上に目を付けられてしまうようだ。そのため、1億円をうまいこと海外に持ち込んだり、匿名性のある金融商品に変換したりして、御上にバレることなく税金の必要としない資金へと変える。これがマネーロンダリングである。本書によれば、一昔前までは、割引債や海外銀行の東京支店を使ってマネーロンダリングができたらしい。しかし、抜け穴があるにせよ基本的にマネーロンダリングは犯罪であるため、賢明な人にはオススメできないやり方である。そこで2番目の裏道、「タックスヘイヴン」が登場する。

「タックスへイヴン」とは租税回避地のこと。タックスへイヴンでは、利子や配当所得に課税されず、国外で得た所得に対しても所得税・法人税が課されない。モナコ、リヒテンシュタインなどヨーロッパの小国、ケイマン諸島などカリブ海の島々、バヌアツなど南太平洋の島々がよく知られている(p.10)らしい。しかも、こういった国々に入国しないといけないのかと思いきや、実はそんなことはない。オフショアバンクや国際金融センターと呼ばれるような香港やシンガポールの金融機関がこういったタックスへイヴンを利用してうまいことやってくれるようだ。その結果、富裕な個人や企業はこういった金融機関を利用して日本にいながらうまいこと税金を払わずにすむ。その結果、いまでは日本企業の大株主にわけのわからないカタカナ名のペーパーカンパニーが名前を連ねるようになった。これを経済紙誌は「外国人投資家」と呼ぶが、その多くは日本人である(p.197)そうだ。しかし、最近はこういったタックスへイヴンへの取り締まりも厳しくなってきているらしい。

そうはいっても、しょせん、日本だけで取り締まろうとしてもうまくいかない。というのも、金融とは、その本質においてグローバルなものである。そこに無理矢理国境という線を引こうとしたところに、制度の綻びの原因がある(p.75)。その結果、どんなに取り締まったとしても、結局、違った抜け道が使われ、合法的にマネーロンダリングが行われていく。著者は本書で次のように述べる。税金とは、市民権(国籍)を有するか、領土内に居住する個人に対して国家が徴収する手数料のようなものだ。となると、日本国籍を持たず、日本国内にも居住していない外国人に対しては、その財産がいかに巨額であっても日本国は徴税権を行使できないことになる。すなわち、税金を払いたくなければ日本国籍を放棄してしまえばいいのだ(p.216)。

国籍を棄てるなんてありえないと思うかもしれない。しかし、本書を読むと、そういう選択肢があってもいいとうなずける。ITが進んだ現在、日本にいても海外の情報が簡単に手に入るし、10年前と比べれば確実にグローバル化が進行している。本書は最後にこう述べる。経済のグローバル化のなかでマネーが国境を越えて移動し、次いで企業が多国籍化した。そしていま、個人の国籍離脱が始まっている。マネーロンダリングはたんなる金融の世界にとどまらず、こうした世界史的な変化のなかでとらえる必要がある(p.217)。今はまだ資産が全然なくても、将来的には資産をしっかりと築いて充実した老後を望むのなら、人生のプラン設計を行うためにも本書を読む価値が十分にある。日本国家があなたのことを守ってくれるとは限らないのだから。




------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 13 点
内訳
文章 (1-5) : 4 点, 内容 (1-5) : 5 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
はじめに 山口組の指南役になった日
第一章 世にも奇妙な金融犯罪
第二章 プライベートバンクの憂鬱
第三章 北朝鮮はなぜ核兵器が必要なのか
第四章 世界でいちばん短いマネロンの歴史
第五章 誰でもできるマネロン
あとがき


【気になったコトバ】
・ドルが唯一の"世界通貨"の地位を得たのは、テロリストや麻薬組織を含め、誰もがドル紙幣を受け取るからである。彼らがドルを好むのは、アメリカに特別の魅力があるからではなく、ただたんに取引相手がドルを要求するからに過ぎない。(p.140)



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