2011年12月18日

究極の投資理論:なぜ投資のプロはサルに負けるのか? (藤沢 数希)


Personal finance / alancleaver_2000


こんなダイレクトメールが送られてきたら、あなたはどう思うだろうか?

前略、投資家様:

弊社は、最先端金融技術を用いて、究極の投資理論を確立いたしました。この画期的な投資理論によって導かれた理論株価は、現在の株価が割安か割高かを瞬時に判断する目安になります。この理論株価に基づいて株式投資をすれば、平均して年7%の運用成績が期待されます。この運用成績なら、もしあなたが今100万円出資すれば、その100万円が10年後には2倍の200万円にもなっています。その間、あなたは何もせず、ただ毎日を普段どおりに過ごしていればいいのです。普段どおりの生活を10年間しただけで、あなたの懐に100万円が勝手に入ってくるのです。でももし今ある100万円をただ銀行に預けていたならば、この低金利な時代にいったいいくらもらえるというのでしょうか。あなたの大切な100万円を雀の涙ほどの利息しかない銀行に10年間預けますか?それとも、10年後に200万円を受け取りますか?



詐欺によくありそうな文面である。一瞬すべてがデタラメだと思うかもしれないものの、とりあえずウソはいっていないところがポイントである。「究極の投資理論」というのも、本書によれば存在する。その「究極の投資理論」を用いれば、株価の割安や割高を見積もることができる。そして、年7%の運用成績なら、100万円が10年後には200万円になる。かといって、こんなダイレクトメールを信用して自分のお金を預けてしまうような人は、ダマされる前に投資の勉強をもっとした方がいい。

以下に本書に書かれていた「お金持ちになる方法」と「究極の投資理論」について、数式を用いながら分かりやすく解説してみる。


本書は、「日本人は、お金のことを知らなさすぎる」と嘆いた外資系投資銀行マンの著者が、数式を用いながら資産運用を身もフタもなく解説する内容である。著者は、きれいごとを述べるのではなく、世の中をやや斜めにとらえてシニカルな表現で物事の本質を述べようとする。

例えば、宝くじを次のように言い切る。僕が思うに、宝くじというのは最強のビジネス・モデルです。いうまでもないことですが、胴元にとって最強のビジネス・モデルということは、一般の宝くじを買うひとたちにとってはとんでもないぼったくりなわけです(p.70)。さらに投資と投機の違いを次のように表現する。はっきりいうと、投資と投機に区別なんてありません。というか、区別しても区別しなくても、どっちでもいいのです(p.55)。

このような、世の中をやや冷めた目で眺める著者の意見は、ある人には心地よく感じるものの、またある人にとっては不愉快に感じるといったように、読者の感想が二極化しやすい。特に、著者の批判の仕方があまりに身もフタもない言い方なため、価値観が異なった場合に感情的に反発しやすくなる。実際に、アマゾンレビューのおすすめ度は星1つから5つまで幅広く分布している。この書評では、著者のそういったシニカル表現はとりあえず脇においておき、著者が分かりやすくまとめた「お金持ちになる方法」と「究極の投資理論」について簡単に紹介してみよう。

お金持ちになる方法



お金持ちになる方法を理解するために、まずはお金の方程式と呼ばれる次の数式をみてみよう。いきなり数式を見せると目眩がする人もいるかもしれない。しかし、理解できてしまえば、これほど便利なものはないので、ここはガマンして聞いて欲しい。

C = Cin - Cout + r x Cstr

まず、イコールの左側にある C というのが資産形成である。資産形成の値 C が大きければ大きいほど、お金がたくさんあることになり、お金持ちに近いといえる。つまり、お金持ちになる方法というのは、この C をいかに大きくするか、にかかっている。C を大きくするには3つの要素がある。それぞれ Cin, Cout, r x Cstr の3つである。ひとつずつみていこう。

まず、Cin というのは収入だ。例えば、年収300万円という人はこの Cin が300万円になる。そして収入が増えれば増えるほど、C も大きくなる。妻がパートにでたり、副業をしたり、転職して給料を上げるといったことは、収入を増やしてこの Cin を大きくすることに相当する。収入 (Cin) の増加はお金を増やすひとつ目の要因である。

収入が多いからといって必ずしもお金持ちとは限らない。収入が多くても、その分、支出も多ければ手元にお金が残らない。方程式の2つ目の要素 Cout というのは支出である。ポイントは Cout の前にマイナスの記号がついていることだ。つまり、支出額 Cout の値が大きければ大きいほど、C は小さくなってしまう。年収300万円稼いだとしても、日々の生活には食費や居住費、さらには税金といった費用によって年間270万円の支出があれば、手元には30万円しか残らないだろう。お金持ちになるためには、節約や節税のように、支出額 Cout をいかに小さく抑えられるかが二つ目の要因である。

最後の要素 r x Cstr は投資とか資産運用とよばれ、最も変動が大きい部分である。本書はここをテーマにしている。ちょっとシャレた言い方をすれば、r が運用利回りで、Cstr が資産になる。例えば、銀行預金に100万円の貯金があり、金利が0.05%だとすると、Cstr=100万円、r=0.05% となって、年間にもらえる利息がたったの500円になる。一方、100万円を株式や債券に投資し、7% の利回りを実現したとすると年間に受け取る収入が 70,000円 にもなる。とはいえ、リーマンショックのように株や債券が暴落して -20% の利回りとなることもあり、その場合は 20 万円の損失を計上しないといけない。このように、資産運用によって得られるお金は変動が大きく、投資によっていかに高い運用成績をあげるかが金持ちになるかならないかの1つの要因となる。これについては、あとでもう少し詳しく述べる。

ということで、お金持ちになるための方法は、1. 収入を増やす、2. 支出を減らす、3. 運用利回りを上げて投資による収入を増やす、の3つしかない。さらにいえば、これら3つのバランスが大切であり、どんなにがんばって昇級して、そのうえ運用利回りを上げて収入を増やしたとしても、それらの合計よりも支出額が上回ってしまえば、お金持ちにはなれないことを上の方程式は意味している。

次にお金持ちになるための3つ目の方法である資産運用について詳しくみてみよう。

究極の投資理論



資産運用によってお金を増やすには、価格を適正に見積もって、その価格よりも安いときに買い、高いときに売ればよい。例えば株式では、株価が安いときに買って高いときに売れば、その差額分が資産運用による収入となる。このとき、どれだけ適切に株価を見積もることができるかがポイントとなる。実は、この適正な株価を見積もる究極の投資理論が存在する。その究極の投資理論はDCFモデルと呼ばれる。著者は次のようにいう。

DCFモデルは、投資理論の王様です。
 多くの経済学のモデルが怪しげな仮定に基づいて組み立てられる一方で、DCFモデルはそれ自体は完全に正しいものです(p.101)。


このDCFモデルを使いさえすれば、株価だけでなく、債券や不動産の適切な価格も見積もることができる。DCFモデルを紹介する前に、今手元にある1万円と1年後の1万円とを比べた場合、どちらの価値が高いか、すなわち現在価値と将来価値の関係について知っておくと理解しやすい。これについては、「小学校から大学教育まで英語で学習できる授業動画サイト Khan Academy」 by My Life After MIT Sloan にて紹介されていた次の動画が分かりやすいので、英語が得意な人はそちらを参考にどうぞ。



ここでは現在価値と将来価値を簡単に紹介してみよう。今、手元に100万円あるとする。これを冒頭で紹介した年7%の利回りで運用すると、1年後に(1.07x100万円=) 107万円、2年後には (1.07x1.07x100万円)=114万円 となっていき、n年後には (1.07)n x 100万円 となる。つまり現在価格を PV, n年後の将来価格をFV(n) とすると、次のようにかける。

FV(n)=(1+r)n x PV

DCFモデルはこの関係を基にして、将来価値を割り出す。この式では、将来得られる利益CFと金利 r を予想して、そこから現在価値 PV を割り出すことができる。例えば、株式を3年間保有し、3年後に売る場合を考えてみよう。その場合、1年後に得られる利益が CF1 で金利が r1 、2年後に得られる利益 CF2 で金利が r2、3年後に得られる利益が CF3 で金利が r3 だったとしよう。そのときの株価 FV(3) で売るとすると、現在の株価は次の式で導くことができる。

PV=CF1/(1+r1)+CF2/(1+r2)2+CF3/(1+r3)3+FV(3)

これがDCFモデルであり、著者が完全に正しいという投資理論である。しかし、著者はこの式が究極の投資理論としておくものの、ただの机上の空論だと切り捨てる。というのも、将来得られる利益CF と金利 r がワカラナイために、数式としては正しくても実際には使えないのだ。どうして実際には役に立たないか実例をみれば分かる。

例えば、パナソニックを例にして、現在株価を見積もってみよう。パナソニックは単元株(100株)に対して毎年1000円の配当金を出している。この配当金が今後3年間支払われ、金利が今後3年間は0.1%だと仮定してみる。現在の株価が 683 円 (2011年12月16日現在) であり、3年後は700円になると予想してみる。すると、現在におけるパナソニックの理論株価は、

PV = 1000/1.001 +1000/(1.001 x 1.001) + 1000/(1.001 x 1.001 x 1.001) + 700円 x 100株
= 999 + 998 + 997 + 70000
= 72994 円

となる。単元株が 100株なので、現在の理論株価は 730 円となる。この理論株価に対して現在の株価が 683 円なので、今のパナソニックの株価は割安だといえる。しかし、今後3年間の配当金が毎年1000円でる保証はどこにもなく、金利も0.1%である保証もどこにもなく、さらに3年後に株価が 700 円となるなんて、一体誰が予測できるのであろうか。それが分かるなら株式投資で誰でも大金持ちになれるだろう。

ということで究極の投資理論の数式がわかったとしても、お金持ちになる道のりは厳しいのである。楽してお金持ちになれると思っている人は本書を読んで現実の厳しさを知るのがいいのかもしれない。投資に関する身もフタもない話が好きな人には、本書がオススメです。



------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 10 点
内訳
文章 (1-5) : 3 点, 内容 (1-5) : 3 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
第1章 マネーの世界はワンダーランドだ
第2章 投資とはどういうゲームなのか?
第3章 株価とは何か?
第4章 投資は運か実力か?
第5章 現代ポートフォリオ理論のシュールな結論
第6章 それでも投資したいひとのために


以下に、本書にでてきた参考文献からいくつかをピックアップして紹介します。

・お金に関する自己啓発的な2冊


・DCFモデルを詳しく知りたい人のための2冊


・番外編



【著者サイト】
金融日記

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