2011年11月26日

はたしてあなたは人格者?:『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (マルコム・グラッドウェル)』

Carl Gustav Jung painted portrait P1050215
Carl Gustav Jung painted portrait P1050215 / Abode of Chaos


先日、出張でワシントンDC周辺へ行ってきた。ワシントンDCといえば、治安が悪いイメージがある。といっても、観光客が行くような地域は比較的安全らしい。噂によると特に危険な地区は東部なのだそうだ(例えばこれ)。そして今回の仕事の訪問先が、残念ながらワシントンDCの北東部であった。

実際に現地へ着くと、たしかに雰囲気が異様だ。何が異様かといわれればうまく言えないものの、「直感」でそう感じる。車は多くても、歩いている人は少ない。なんといっても町は白人よりも黒人の比率がかなり高い。知り合いからは、夜にホテルから外を出歩かないよう注意されていた。夕食をとる必要があったので、しかたなくホテルにあったレストランで食事をとろうとするも、そこのウエイトレスのおねえちゃんがハンパない。ねえちゃんというと聞こえがいいものの、彼女の二の腕にはその道のプロかと思わせるような入れ墨が彫られ、歯が何本か抜けていた。ホテルの従業員にもやはり黒人が多く、どこか迫力がある。訪問先へ行ったときも厳重なセキュリティチェックが行われ、警備に余念がない。車で町を移動するときも、車内にはモノを置かないように気を使い、どこへいくにも常にカバンを持ち歩いていた。幸いにも、私の直感がうまく働いたためか、特に問題なく訪問先で仕事を終えることができた。

その後、ニュージャージー州のプリンストンへと移動した。するとどうだろう。ワシントンDCとは全然違って、自然が豊かで落ち着いた雰囲気の町であった。プリンストン大学へ訪問すると、学生は穏やかで誰も殺伐としていない。白人の比率がかなり高く、黒人は少ない。行き交う人々はどこか品がある。特にこれといって厳しいセキュリティチェックがあるわけでもなく、戦々恐々とした様子もない。車で移動したときは、知り合いに「ワシントンDCとは違って、ここでは車内にカバンを置いておいても誰も盗むヤツなんていないから大丈夫だよ」と言われた。かなりリラックスして町の雰囲気を味わうことができた。

注意しておきたいことは、黒人が多いからといって、それが即危険であることを意味しているわけではないことだ。白人だろうと黒人だろうと日本人だろうと、いい人もいれば悪いことをする人もいる。どの国でも人種によらず犯罪は起こる。少なくとも私自身、人種差別的な判断をしたくない。しかし、そう頭では理解していても無意識のうちに人種差別的な偏ったモノの見方をしてしまうことがある。

例えば、IATテストとよばれる一種の心理テストを受けてみよう。本書では89ページに記載されている。内容は簡単だ。下の表のように、「ヨーロッパ系アメリカ人または悪」と「アフリカ系アメリカ人または善」という二つのカテゴリーがある。その下に続く単語をみて、それがどちらのカテゴリーに入るかを瞬時に判断するだけのテストである。誰にでもできる、いたってシンプルなテストなので、是非、トライしてみてほしい。

ヨーロッパ系アメリカ人 または 悪 アフリカ系アメリカ人 または 善
傷つける
凶悪
輝かしい
(黒人の写真)
(白人の写真)
素晴らしい

さて、結果はどうであっただろうか。例えば、「傷つける」や「凶悪」という言葉を「ヨーロッパ系アメリカ人 または 悪」というカテゴリーに、すんなり、間違えずにいれることができただろうか。「素晴らしい」という言葉を「アフリカ系アメリカ人 または 善」というカテゴリーに悩まずスムーズに入れることができただろうか。

では、今度はカテゴリーを入れ替えて、次のようにするとどうだろう。挑戦してみよう。

ヨーロッパ系アメリカ人 または 善 アフリカ系アメリカ人 または 悪
傷つける
凶悪
輝かしい
(黒人の写真)
(白人の写真)
素晴らしい

今度は、先ほどと比べて、なぜか「傷つける」や「凶悪」といった言葉を抵抗なくすんなりと「アフリカ系アメリカ人 または 悪」のカテゴリーにいれることができたのではないだろうか。「素晴らしい」という言葉をこれまたスムーズに「ヨーロッパ系アメリカ人 または 善」というカテゴリーに入れることができたのではなかろうか。先ほど、「私は人種差別をしたくない」といった意味のことを書いた。しかし、悲しいかな、私もなぜか「ヨーロッパ系アメリカ人」を「悪」と結びつけようとするよりも「善」と結びつける方が、すんなりとカテゴリー分けができてしまう。「ヨーロッパ系アメリカ人」と「悪」を結びつけることが、なぜか直感的に難しいらしい。

直感はときとしてすごく役に立つ。私が特に問題なくワシントンDCへの出張を終えることができたのも、この「直感」がなせる技かもしれない。しかし、「直感」は常に正しいとも限らない。どうして「ヨーロッパ系アメリカ人」と「悪」を結びつけることに抵抗を覚えてしまうのだろうか。私が人種差別的なモノの見方をするからなのだろうか。そんな心の仕組みについて、本書を基に以下に紹介してみる。

本書は、直感の利点と欠点について、豊富な心理学研究の例を取り扱いながら考察した内容である。タイトルでは「第1感」と訳してあるものの、英語のタイトルは "blink" となっていて、直感やひらめきといった意味になる。本書のメインとなる主張としては、自分の直感で下す判断はたいてい正しい、ということである。けれども、ときにはそういった直感が見誤ることもある。以下に本書の目的とあわせて「直感」を簡単に紹介してみよう。

・直感はたいてい正しい

とっさの判断と第一印象だけでも、人は状況を的確に理解できるのだ。瞬時に下した判断も、慎重に時間をかけて下した結論と比べて、けっして見劣りしない。この事実に目を向けてもらうことが、本書の第一の目的である。(p.19)

例えば、羽生善治氏のようなプロの将棋の棋士は、盤の状況をほんの一瞬みただけでどちらが優勢であるか瞬時に判断できる。サッカーの中村俊輔選手はまわりを一瞬見渡しただけで、各プレイヤーがどこにいるかを鳥瞰図のように把握できる。こういった一瞬の判断は、論理的な思考で説明できるものではなく、直感的な瞬時の判断に基づいて行われる。本書には次のように説明されている。瞬時の判断というものは、まずごく短時間に起こる。判断に使うのは体験したうちのごく薄い輪切りの部分だけ。またそのような判断は無意識に起こる(p.55)。つまり、自分のこれまでの経験と、今あるいつくかの少ない重要な情報を頼りに瞬時に結論が下される。しかし、その「重要な情報」が何なのか、本人もよく分からず、うまく説明できないようだ。その結果、「どうして優勢か劣勢かがすぐにわかったのですか?」と聞いたとしても、返ってくる答えは「なんとなく」といった冴えないものになってしまう。

直感を言葉で説明しようとしても、それがなかなか難しいのには次のような理由があるようだ。脳には言葉で考える左脳と視覚で考える右脳がある。顔を言葉で説明すると、視覚的な記憶が言葉に置き換わり、思考が右脳から左脳に追いやられてしまう(p.125)。さらにこう続く。人間には話をでっちあげるという問題がある。説明できないことをあわてて説明しすぎるのだ(p.74)。つまり、直観ではある重要ないくつかの情報を基に判断しているものの、その判断は無意識で行われているために、その重要な情報がいったい何であるかは本人もよくわからないようである。

・ときには直感が鈍ることもある

しかし無意識の判断のすべてが正しいという保証はない体内コンピュータがいつでも正しい判断を下すとは限らないのだ。ときとして、直感的なひらめき「第1感」を曇らせる何かが存在する。早く目玉商品が欲しいとか、初恋の相手だとかいう類の事情である。そうだとすれば、第一感を信じていい場合と信じてはいけない場合を区別することは可能なのか。この疑問に答えるのが、本書の第二の目的だ。(p.20)

直感が鈍る原因のひとつに「先入観」がある。冒頭で述べたIATテストでも、白人を善と結びつける文化的なメッセージに日々されされている(p.92)ために、知らず知らずのうちに「白人は安全」で「黒人は危険」という先入観が植え付けられている。日本人が英語に対して妙に劣等感を感じるのも、こういった文化的なコンプレックスも関係しているのだろう。自分では気付かないまでも、先入観、噂、偏見といった情報が知らず知らずのうちに直感を鈍らせてしまう。冒頭では、アメリカの治安の悪さと黒人の多さをワザと結びつけて、白人=善という印象を読者に与えるようにしてみた。しかし、もし冒頭で私がスポーツで活躍している黒人のプレイヤーや、オバマ大統領やキング牧師といった平和に貢献している黒人を扱って、黒人=善という印象を与えるよう誘導したならば、IATテストの結果ももう少し変わったはずである。ときとして直感は鈍る場合もある、といったことを理解しておくことも、直感を信じることと同じくらい重要であろう。

・直感は鍛えることができる

もうひとつ、私が本書で伝えたいのは「第一感は養うことができ、自由に操れるものだ」というメッセージだ。(p.21)

これまで直感のすごさともろさを簡単に紹介してきた。最後に伝えたいことは、こういった直感は鍛えることができる点である。どうやって直感を鍛えればよいか知りたい方は、中途半端な説明よりも本書を読んだほうがいい。なぜなら、「なんとなく」そう思うから。

第1感  「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)
マルコム・グラッドウェル
光文社
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------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 12 点
内訳
文章 (1-5) : 4 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
第1章 「輪切り」の力
第2章 無意識の扉の奥
第3章 見た目の罠
第4章 瞬時の判断力
第5章 プロの勘と大衆の反応
第6章 心を読む力


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posted by lhflux at 10:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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