2011年10月09日

もし偉大な経済学者ケインズがモノポリーをやったら:入門経済思想史 世俗の思想家たち (ロバート・L・ハイルブローナー)




モノポリー(英語:Monopoly)とは20世紀初頭にアメリカ合衆国で生まれたボードゲームの一つである。プレイヤーはサイコロを2つ振って、すごろくのように盤上をぐるぐる回る。このとき、盤上には不動産があり、その不動産を購入したり、他のプレイヤーと取引しながらお金を殖やす。最終的に他のプレイヤーを全て破産させれば勝利である。(wikiより。一部改変)

この「モノポリー」を極めることで「経済学」を学べないだろうか、そんな小学生並みの思いつきがケインズを学ぶきっかけだった。

さっそくモノポリーをやろうと思うも、ボードゲームであるために残念ながら一緒にやるプレイヤーがいない。しかもボードゲームだと場所も必要だし用意するのも面倒だ。子供がいれば、途中で邪魔されてゲームをはじめるも中途半端に終わってしまうことが目に見えている。そんなとき、iPad でモノポリーがないか調べてみると、これがなんとあった。iPad なら場所もとらないし、途中で中断してもオートセーブで続きからできるし、しかもコンピュータが相手していくれるのでプレイヤーの問題も解決である。値段も800円とボードゲームより安い。ということで、iPad版モノポリーを購入して経済を学ぶ道がスタートする。

モノポリーの必勝法といえば、家を4棟建てて、そのあとホテルを建てることだ。現実に当てはめて考えれば、有利な土地に投資して、家やホテルを建てることで資産価値を高め、あとは収益があがるのをのんびり待つだけのことである。まあしょせんコンピュータが相手なのだから、私のこれまでの経済学の知識を使えばこんなもの余裕だろう、とナメていた。始めはコンピュータを弱く設定し、数回ゲームをやっていると、この戦法で徐々に勝てるようになってきた。ゲームにもだいぶ慣れ、有利な土地等が分かるようになってきたので、コンピュータの強さを「最強」にしてみた。そうすると、これがなかなか勝てない。運がよければ、たまに勝てるはずなんだと思いきや、なぜか全く歯が立たない。何度やってもやっぱり勝てない。

「今まで読んできた経済の本はいったいなんだったんだ」という気持ちが心の底から沸き起こり、自分の不甲斐なさと悔しさのあまり iPad の画面が涙で濡れる。オイラの投資戦略は間違いだらけだったのか、と自己嫌悪に陥る。今まで読書で学んできたことが全部ウソなら、もう書評ブログなんてやっていても意味がない、と自暴自棄になってしまう。そんな悪魔のささやきをなんとか振り切って、本書を手にリベンジを心に誓う。きっとコンピュータに勝ってやる。経済学の知識を使ってなんとしても勝ってやる。

どうせなら経済学を原著で学んでしまおうと"The worldly philosophers" を購入する。しかしあえなく挫折する。ワカラナイことが英語なのか内容なのかですら、定かではなかった。すごすごと日本語訳に戻って再度、本書に挑戦するも、これがなかなか厳しい。本書を読んでいる途中、「有閑階級」だの「帝国主義」だの「人道主義」だの「一般的過剰供給」だのワケのワカラん言葉が出るたびに何度もくじけそうになりながら、それでもコンピュータに勝ちたい一心でなとか最後まで読み終えた。

するとどうだろう。コンピュータに勝てるようになった。本書にあった経済学の知識を使ってコンピュータを見事に粉砕した。本書にあったケインズの理論を使ってコンピュータに勝利をおさめた。そんなケインズの力を以下に簡単に紹介してみよう。


本書は、多くの学生を経済学へと導くことに重要な役割を果たしたといわれる "The worldly philosophers" の日本語訳である。内容としては、日本語のタイトルにあるように経済思想史入門に相当する。しかし、著者いわく、「経済学」という言葉を使ったのでは本の売れ行きが悪くなるらしく、原著のタイトルには経済という言葉が出さずに"The worldly philosophers" としたようだ。"worldly"という単語を辞書で調べると"世俗の"といった訳語がのっている。それでは分かりにくいので、もっと噛み砕いてこの原著のタイトルをいうなら、「偉大な思想家たち」といったところだろう。

冒頭でも述べたように、本書は私にとってなかなか難しい内容なので、私の理解した範囲で経済思想の歴史を簡単に紹介してみる。

18世紀初等のイギリスでは、富を追求してよいのは王様や貴族だけであり、一般市民が富を求めてはいけない社会だった。本書にはこのように記載されていた。

富の追求は、いかなる社会においても以前は合法ではなかったし、いわんやだれも褒められはしなかったのである。富の追求は、王様はもちろん行ったし、冒険家もおそらくはやっただろう。しかしそれ以下の階級については、けっして認められていなかった(p.510)。

その後、産業革命にみられるような技術の進歩によって国民の生産性が増し、その結果国が栄えるようになる。こうした時代にアダム・スミスが登場し、「私利の追求と競争が国にさらなる富をもたらす」といった「国富論」を展開する。つまり、労働者が自分の利益を追求して、かつ、政府の規制がないような自由な競争が行われていれば、放っておくと適切な価格が設定され、国全体でみたら生産性が向上し、国が栄えていく、とした。実際にこの時代では、生産性が向上し、国が栄えていった。

しかし、この好景気にもやがて陰りがみえ、社会は不況へと突入していく。そんな不況の原因を解き明かすため、マルサスやリカードといった経済学者たちが諸説を展開しはじめる。といっても不況の原因が解明されたわけではない。しかし、これまであまり注目されてこなかった、身分の低い労働者に焦点を当てることが不況を乗り越えるうえで大切だと認識されるようになる。というのも、不況になると労働者達の暴動がおき、国全体の生産性が下がり、上流階級への不満も爆発してしまう。といっても労働者たちの目標は、上層階級を取り除くことではなく、その階級へよじ登ることである(p.380)。そこで、労働者たちも利益を追求すれば、国がますます栄えていくと期待された。

残念ながら、それでも不況は続いた。そこで登場するのが偉大な経済学者ケインズである。そしてケインズの不況の理解をモノポリーに応用することで私も勝てるようになった。本書を引用しながらケインズの主張をみていこう。

まず、ケインズは経済を次のようにとらえた。

経済を特徴づけるものの中心にあるのは、手から手へと渡る所得の「流れ」なのである。人々が何かを購入するときはいつも、所得の一部が他人の懐へと移転している。同様にわれわれ自身の所得も、賃金であれ給料であれ、地代、利潤、利子であれ、もとをたどればだれか他人が費やしたカネから生じたものである。自分の得ている所得について考えてみよ。それがだれか他人の懐から出てきたものであることがわかるだろう。
 経済が絶えず活力を蘇生させるためには、おカネをぐるぐる回すこと−互いに他人の洗濯物を引き受け合うと表現されてきた−が必要である(p.433)。


自分のことを顧みても、払った家賃は家主の所得になるし、ご飯を買えば販売者の所得になるし、iPad でゲームを買えば Apple や制作者の所得となる。資本主義の経済はそうやってお金が回ることで成り立っている。経済をこのような「お金の流れ」と捉えた場合、この「お金の流れ」をダムのようにせき止める部分がある。それをケインズは次のように表現する。

われわれの所得のうちで、直接市場へ出てきて他人の所得になることのないような部分がある。それが貯蓄だ。もし人々がこうした貯蓄を敷き布団のなかに縫い込んだり、現金の形で蓄めこんだりしたなら、明らかに所得の流れの循環を塞ぎ止めることになるだろう(p.434)。

そして、ケインズの鋭い視点によって、この貯蓄の役割を経済の不況と次のように関係づけた。

不況の結果は貯蓄の供給過剰ではなく、貯蓄の枯渇であり、貯蓄の洪水ではなく、貯蓄の流れが細くなることであろう。(p.442)

つまり逆に言えば、貯蓄が枯渇すると不況が到来し、経済が発展しなくなる。このケインズの視点をそのままモノポリーに当てはめてみよう。モノポリーで勝つためには、土地を購入して、そこにホテルを建てる、という手順で間違いはない。しかし、このとき自分の貯蓄、すなわち所持金をある程度保持しておかないと、不況となってしまってお金が殖えなくなるのがケインズの理論である。つまり、モノポリーで勝つには、土地を購入したり家を建てたりするときに、自分の所持金が少なくならないように注意し、一方で相手の所持金を減らすように努めればよいことになる。焦って所持金を全部使い切ってホテルを建ててしまうと、運がよければ勝てるかもしれないものの、常勝するまでにはいたらない。

私も半信半疑とはいえ、この戦略でモノポリーをやってみた。すると今までまったく歯が立たなかったはずのコンピュータ相手に、なんと、すんなり勝てるようになった。ケインズ恐るべし。これだから読書はやめられない。

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総得点 (15点満点) : 11 点
内訳
文章 (1-5) : 3 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
序文
第一章 前奏曲
第二章 経済の革命−−市場システムの登場
第三章 アダム・スミスのすばらしい世界
第四章 マルサスとリカードの陰鬱な予感
第五章 ユートピア社会主義者たちの夢
第六章 マルクスが描き出した冷酷な体制
第七章 ヴィクトリア期の世界と経済学の異端
第八章 ソースタイン・ヴェブレンの描く野蛮な世界
第九章 J・M・ケインズが打ち出した異論
第十章 シュンペーターのヴィジョン
第十一章 世俗の思想の終わり?


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