2011年09月17日

夫婦ケンカの最前線に立ち続ける覚悟はあるか:ザ・ゴール2 思考プロセス (エリヤフ・ゴールドラット)

Rome visit, June 2008 - 57Rome visit, June 2008 - 57 / Ed Yourdon


とある休日の昼下がり...

妻「ねえ、ちょっとテレビばかり見てないで休みの日くらい掃除を手伝ってよ。」

夫「今、いいところだからもうちょっと待ってて。」

妻「どうせ録画なんでしょ。ちょっとだけ止めればいいじゃない。」

夫「ちょっと待ってと言ってるだろ!もうすぐで終わるんだから。」

妻「さっきからずっとお願いしてるのに全然終わらないじゃない!もう!!いいかげんにしてよ!!!」

夫「うるさいなぁ〜。なんで仕事で疲れてるのに掃除なんかしないといけないんだよ!もう!」

妻「汚してるのはあなたでしょ!!!なによ、この脱ぎっぱなしの靴下は!!それに私だって仕事で疲れてるのよ!それなのに家事は全部私に押し付けて!!こんなのもうイヤよ!!!」

夫「オマエだって部屋を汚してるだろ!ほら!この落ちてる髪の毛はどうみてもオマエのだろ!!言いがかりばかりつけてくるなよ!」

妻「言いがかりはそっちでしょ!!こんなのホントもうイヤ!もう知らない!!!!!あとは勝手にして!!!!」

そういって立ち去る妻....

どこにでもよくありそうな夫婦ケンカの一部である。キッカケはべつにたいしたコトではない。しかし、こういった些細なことが原因で夫婦関係が悪化し、ひどいときには離婚の危機にまで発展してしまうことがある。果たして、こんな状況でもこの夫婦は仲直りできるだろうか。もし仲直りできる可能性があるとするのなら、どうすればよいのだろうか。夫の立場に立ってすぐに思いつくありがちな回答を列挙してみると、夫が謝ってしぶしぶ手伝う、妻が家事をするよう説得を試みる、妻の怒りが冷めるのを待つ、家を出て行く、などがある。しかし、こういった回答を実際に実施したところで何か別のキッカケで再び夫婦ケンカが再燃し、やっぱり夫婦仲は険悪になってしまう...。

こんな回復不能と思われる状況でも、本書のゴールドラット博士が伝授する思考プロセスを用いれば、状況を好転させることができる。以下に詳しく書いてみる。


本書は、物理学者でもあるゴールドラット博士が物語を読みながらTOC(制約条件の理論)を学べるように書き下ろした小説風ビジネス書である。前作にあたるザ・ゴール (エリヤフ ゴールドラット) では、TOCの概要を「ボトルネック」と「全体最適化」という言葉をつかって、潰れそうな工場の立て直しというテーマで物語風に紹介していた。今回はTOCの中でも「思考プロセス」に焦点を当てて、前作と同様にTOCの概念を物語風にアレンジして楽しく学べるよう工夫されている。そんな前作との違いは、TOCをマーケティングや人間関係にまで応用している点であり、前作からさらに理論が洗練されている印象を受けた。

先ほどから頻繁にでてくる「TOC」。こんなシャレた言い方をされるとなにやら難しそうな印象をうけるものの、一度理解できればその内容がシンプルでかつパワフルな理論だと気づく。私なりの言葉でTOCを簡単に紹介するために、「お小遣い」を例に考えてみよう。月々のお小遣いの額は変わっていないのに、今までと比べてなんだか最近、月末になると金欠で困った状態がよく続くとする。TOCとは逆の視点である「部分最適化」でこの問題を解決しようとすると、金欠を見直すためにジュースやおかしの購入を見送ったり、とにかく1円でも安いものを買うといった節約に励むことに相当する。つまり、部分的な改善を試みる。一方、TOCにでてくる全体最適化の視点では、お金の支出額を整理してボトルネックとなっているものを探す。仮に交際費という名の飲み会代が支出の半分以上を占めていたとすると、飲み会への参加を減らしたり一次会だけで帰るようにして支出を減らすといった対策をとることで月末における金欠問題の解決を試みる。つまり、全体を見渡したときにもっともコアとなっている問題の解決にだけ集中することがTOCのポイントといえよう。

しかし、このコアとなっている問題、すなわち「ボトルネック」を見つけることがなかなか難しい。本書の「思考プロセス」では、この「ボトルネック」を見つけ出す手順を提示している。本書に登場したこの「思考プロセス」を用いて、冒頭で述べた夫婦ケンカの解決策を夫の立場で考えてみよう。「思考プロセス」で大切なのは、状況を整理して解くべき問題を明らかにすることである。ボーっと頭の中で考えてしまうと部分最適化のワナにはまってしまうので、きっちりと問題を整理して文字として書く方がよい。本書には、こういった状況でどう対応すればいいかの手順があった(p.15-19)ので、それを基に考えてみる。

Step 1. 適切な妥協案が見出せないような交渉状態に陥ったら、すぐに対話を中止しなさい。

お互いが感情的になってしまうと、交渉は成立しない。まずは対話を中止して頭を冷やて冷静になる必要がある。冷静になるまで散歩したり、アイスを食べたりして心が落ち着かせよう。心が落ち着いたら次のステップへと進む。

Step 2. いかに交渉が感情的になっても、相手を責めるのではなく、適切な妥協案を見出せない対立状況にお互いとらわれてしまったことが問題なのだということを認めなければいけない。

本書にもかいてあったが、これがなかなか難しい。人は常に自分が正しいと思っている。常に自分は正しいと思っているからこそ、人は自分の意見を持つ。そのため自分と異なる意見を目にすると「私は正しい。君は間違っている。」という二極論に陥りやすい。そうなると「相手をなんとかしよう」という発想になってしまう。その結果、妻は夫に掃除を手伝わせようとするし、夫は妻に掃除を強制するなと抵抗する。しかし、「人は常に自分が正しいと思っている」という視点に立てれば、「私は正しい。君も正しい。」という考え方にたどり着くかもしれない。そうなると戦うべき敵は、目の前の「相手」ではなく、「適切な妥協案を見出せていない対立状態」であることに気づく。言い換えれば、掃除を手伝ってくれない夫やガミガミとクチうるさい妻が問題なのではなく、夫婦仲良く休日を過ごすにはお互いどうすればいいか分かっていない状態が問題なのである。「解決すべき問題」が目の前あり、自分と相手はまだその「答え」を知らない、ということを認識できたら次のステップへと進む。

Step 3. 正確に<雲>(対立解消図)を書く

ここでいう<雲>(対立解消図)というのは本書にでてきた言葉で、状況を視覚的に整理した図のことである。その具体的な書き方をみてみよう。まずは以下の設問に答えることからはじめる。

・「自分は何を望んでいるか」
・「相手は何を望んでいるか」
・「それらの理由は何か」
・「共通した目的は何か。どうして交渉しなければいけないか。何が理由で適切な解決策を見つけなければならないか」

ひとつずつ見ていこう。「自分は何を望んでいるか」に対して、夫は「リラックスしてテレビをみたい」となる。一方、「相手は何を望んでいるか」に対して、妻は「自分だけでなく夫にも掃除(もしくは家事)を手伝ってもらいたい」となりそうだ。この結果、お互いの願望が対立していることが分かる。次に、夫と妻それぞれの「理由は何か」である。この理由には個人差が大きく一概に答えは出せないものの、ここでは、夫の理由として「日頃の仕事での心身の疲れを癒すため」、妻の理由として「自分の家事の負担を減らすため」としておく。そして最後の設問は「共通した目的は何か。どうして交渉しなければいけないか」である。もしこのまま何の交渉もしなければ夫婦仲がどんどん悪くなり、ひどい場合には離婚にまで発展してしまう。もし、さすがにそれはイヤだなぁと思うのなら、夫婦仲を良くしておきたいと思うはずだ。その場合、共通した目的は「良好な夫婦関係を築く」となるだろう。以上をまとめると、次の<雲>(対立解消図)ができあがる。

goal2-cloud.jpg


この図をじっと眺めて夫の取るべき行動を考えてみよう。夫は自分の手を煩わすことなく妻の家事の負担を減らせることに成功すれば、お互いの共通した目的である「良好な夫婦関係を築く」ことに貢献できるはずだ。言葉はかなり悪いが、夫は家事が面倒で自分でやりたくないから、それをすべて妻にアウトソーシングしているとも言える。この家事のアウトソーシング先を妻にしているから文句を言われるわけで、そのアウトソーシグ先を妻以外の人にすれば問題が解決するはずである。そう考えると、第3者にお願いするならば週に一回「家事代行サービス」を利用してみてもよいし、場合によっては自分の親や子供にお願いするという裏技もあるだろう。また、テクノロジーにお願いするならば、食器洗濯機やお掃除ロボット「ルンバ」、さらには洗濯乾燥機を購入する方法もある。我が家はテクノロジーに活躍してもらっており、食洗器は「Panasonic 食器洗い乾燥機 ホワイト NP-TM3-W」を、掃除機は「iRobot Roomba 自動掃除機 ルンバ 577 シルバー」を利用している。洗濯乾燥機はまだ納得がいくレベルになっていないので様子を見ている状況である。これらの方法で必ずしも夫婦仲がうまくいくとは限らないし、他の解決策もあるかもしれない。とはいえ、上の例題で「思考プロセス」の威力が少しでも感じ取ってもらえればそれで十分である。

本書には、この「対立解消図」の他にも「現状問題構造ツリー」「未来問題構造ツリー」「前提条件ツリー」「移行ツリー」「ネガティブ・ブランチ」といった思考プロセスが紹介されいている。これらのツールは全部まとめて使ってもいいし、上の例でも見たように、ひとつひとつを別々に利用したとしても十分に威力がある。本書を読めば、これら「思考プロセス」の使い方とその威力がさらに詳しく分かるはずだ。また、本書の最後に稲垣公夫氏による解説があって、これらのツールをコンパクトにまとめてある。仕事を効率よく進め、良好な人間関係を築きたいビジネスパーソンには一読の価値がある。頭を使って仕事をしたい人に特にオススメ。


ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス
エリヤフ・ゴールドラット
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 3159


ゴールドラット博士はおよそ3ヶ月前の2011年6月11日にこの世を去りました。私はまだ「ゴール」と「ゴール2」の2部作品しか読んでいませんが、どちらの作品も本が分厚いにもかかわらず、時間を忘れて読書に没頭してしまいました。明快な論理で楽しく学べるよう工夫された博士の書籍がもうこれ以上増えないのだと思うと残念でなりません。ご冥福をお祈りするとともに、追悼の意もこめてこの書評を捧げます。

------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 15 点
内訳
文章 (1-5) : 5 点, 内容 (1-5) : 5 点, 感動 (1-5) : 5 点
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目次
I ...... 緊急動議
II ..... 昔の仲間
III .... ロンドンへ
IV .... 葛藤
V ..... ザ・ソリューション
VI .... 究極の企業戦略


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posted by lhflux at 14:52| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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