2011年08月21日

ユダヤ式「天才」教育のレシピ (アンドリュー・J・サター & ユキコ・サター)

うちの息子は3歳ごろからサッカー教室に通っている。今でこそ毎週楽しく通っているものの、通い始めのころはなかなか大変であった。親としては、月謝を払っているのだからきちんと参加してもらいたいし、やるからにはサッカーがうまくなってもらいたい。一方、子供はお金のことなんか全く気にするわけもなく、大切なのは本人にとって楽しいかどうかである。

初期のころ、息子が通っている3〜4歳児向けのサッカー教室の練習風景を書いてみよう。前日の夜は、息子もサッカーができるのを楽しみにしていた。そして、いよいよ練習当日。サッカー教室の時間が始まる...

−−コーチのまわりにみんな集まる。

親「お、サッカーが始まるみたいだよ。ほら、もうみんなアッチに集まってるよ!早くいかないと。がんばれー」

子「.....」 

−−子供が集まると、コーチのかけ声のもと、子供達は自由にドリブルし始める。

親「ほら、ボールを蹴って蹴って。あ、手でもっちゃダメ!蹴らないと!そうそう。イケイケ!」

子「.....」 

−−ドリブルしながら自分の色のビブスを集めるゲームが始まる。

親「がんばれー。あ、それ色が違う。青いヤツ、青いヤツを集めないと!そうそう。イケイケ!」

子「.....」

−−ひと通り練習が終わり、家に帰る。その帰り道。

親「いやー、今日もがんばってやってたねぇ。ドリブルなんかすごくうまかったよ。ボールを止めるときはコウやって足の裏で止めるとしっかり止まるよ。するとサッカーがもっとウマくなるから。」

子「...。もうサッカーいきたくない!」

親「えっ!?」

親は子供に突然こう言われて、かなり狼狽する。親は、なぜ息子は突然サッカーがイヤになったか、すぐには理解できない。あんなにサッカー教室を楽しみにしていたはずなのに、と回想する。と同時に、子供によかれと思って始めたサッカー教室の入会金と月謝が頭をかすめる。そして、子供に向けて発するコトバを必死に探す。さてこんなとき、あなたなら、どんなコトバを発するだろうか。次の中から選んでみよう。

1. 「お金も払ってるんだし、折角だからもっと続けようよ」と説得する。
2. 「イヤならしょうがない!もうやめよう!」とキレる。
3. 「そっかー、もう行きたくないかぁ」と同意してその場は流す。
4. その他(コメント欄にどうぞ)。

果たして、その後はどうなったのだろうか。気になる方は続きをどうぞ。

上で述べたような状況に遭遇したとき、親はどう対処すべきか。残念ながら、その答えを私は知らない。

ここはただあきらめて、うちの息子は「天才」でもなんでもなく、サッカーの才能なんてなかったんだ、という一言で片付けることもできる。しかし、ここでふと世界を見渡してみると、特に科学の世界で「天才」といわれる人たちにはユダヤ人が多いことに気づく。例えば、アインシュタイン、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」 (amazonへ)の著者でノーベル物理学賞をとったファインマン、「完全なる証明」(書評へ)に登場し、難問すぎて懸賞金まであったポアンカレ予想を見事に証明したペレルマン、などなど。日本でもユダヤ人というと、「大富豪」「頭脳明晰」といった勝手なイメージをもっていたりする。もし「ユダヤ式の教育方針」を知り、それを取り入れることができれば、うちの息子が「天才」となるチャンスもまだ残されているのではないだろうか。そんなアサマしい下心は置いておき、天才を育てるユダヤ式教育方針を知っていて別に損はないだろう。

そこで登場するのが本書である。本書は、ユダヤ人のアンドリュー・J・サター氏と、彼と結婚することになった日本人のユキコ・サターとが共著で書いた、ユダヤ式の教育方針を伝える内容である。プロローグから第3章までに、ユダヤ式教育の紹介や解説がなされていて、その後の第4章で実際に世界で活躍しているユダヤ人5人の子供のころの教育に関するインタビューを収録している。私が読んだ限りでは、先に5人のインタビューを読んでから、ユダヤ式教育方針を紹介する構成の方が理解しやすいように感じた。とはいっても、ビジネス書のような堅い雰囲気はなく、女性雑誌のような文体であるため、気軽に読める内容である。そのため、本書は母親向けに書かれた育児書という印象をうけた。

ユダヤ式「天才」教育といっても、その内容は驚くほどシンプルである。どれくらいシンプルかというと、たった一言でいうことができるほどである。それは、

一番大事なのは、学ぶのは楽しいことだと教えること(p.16)

だけである。難しいコトバは一切ない。子供が「学ぶことを楽しむ」だけである。しかし、これだけでは何をすればいいか、わからないかもしれない。そこでこの基本を抑えるために、親は以下に示す3つのことだけに注意すれば良いと本書にあった。

ユダヤ式教育法(p.16)
・良い成績を取れ、と子供にハッパをかけない。
・家にはかなりの数の本を常に備え、親子で一緒に読書を楽しむ。
・いろいろなものを見せ、経験させるために、しょっちゅう子供と一緒に外出する。

2つ目と3つ目の項目は、比較的簡単に取り組める。とくに2つ目の「家にたくさんの本を備えること」の重要性は、インタビューした5人が5人とも口をそろえて言っていた内容である。ユダヤ人家庭では、とにかく家に本がいっぱいあって、親も子供も読書を楽しむ環境であったそうだ。そして、休みの日には博物館、美術館、動物園、水族館、本屋、コンサート、史跡等、いろいろなところに連れて行って、子供に刺激を与えることが大切だと言っている。日本にいれば、これら2つのことはそれほど難しくないように思う。

問題は、1つ目の「良い成績を取れ、と子供にハッパをかけない」ことである。これは特に日本人の親にとって難題だと思われる。日本の文化は和を重んじていて、人や自然との共存を大切にする。これは非常によいことだと思う。しかし、和を重んじすぎるがあまり、他人に迷惑をかけないようにしようとしすぎて、過度に失敗を恐れているように感じる。学校教育では、間違いに×をつけ、間違うことや失敗することは悪いことだと教える。町にでれば、「危険、近寄るな」「車内で携帯を使うな」「ここには停めるな」と、しちゃいけないことばかりが書かれている。そんな日本で生活していると、子供は「きちんと席に座れ」「列を乱すな」「大声を上げるな」「早くしろ」「マナーを守れ」等、あれヤレこれヤレと何もかも指図されまくって生きることになる。そういう環境で育った人がオトナになったとき、自分の子供がちょっと間違ったり、ちょっと失敗したりすると、目に余ってしまい、それをすぐに正そうとする。子供の言動に対してなかなか寛容になれないのだ。

この傾向は男性よりも女性の方が強いように感じる。自分もそうだったし息子もそうであるのだけれども、男の子は怒られてもあまり気にしない。なので年中怒られているし、ダメだといわれても、平気でそれをやる。一方、女の子は優等生で、先生や親の言うことをよく聞き、普段から怒られないよう、そして先生や親の期待に答えようと行動する。反抗期のときは別だけれども、ダメといわれたことは、まずやらない。そうやって育ってきたもんだから、母親になって自分の子供が先生に怒られていたり、ちょっと間違えたりすることをものすごく気にしてしまう。その結果、ついつい子供のやることなすことに干渉してしまい、ああしろ、こうしろ、あれをするな、これをするなと口にしてしまう。これが結果的に子供の自由な心とヤル気を奪ってしまうことになる。

もう一度、冒頭にもどって自分自身の言動を注意してみる。親としては子供を応援しているだけのつもりでも、結果的に息子にあれヤレ、これヤレと言ってしまい、それが息子のヤル気を奪っていたことにふと気づく。運良く、それに気づくことができた私と妻は、二人で反省して息子に謝った。そして提案してみた。

親:「ごめん。お父さん、サッカーのときにいろいろ言い過ぎた。反省している。ごめんね。次にサッカーへ行ったときは、お父さんとお母さんは黙って応援する。あれヤレとか、こうしろとか言わない。自分の好きなようにやっていいよ。命の危険さえなければ、何をやってもいい。サッカーがやりたくなければやらなくてもいいし、やっていて面白かったら続けてもいい。それは自分で決めていい。お父さんとお母さんは何もいわない。」

子:「...」

親:「どうする?もう一回だけサッカー行ってみる?そのとき、お父さんとお母さんは黙って応援してあげるから」

子:「...。わかった。もう一回やってみる」

次の週、息子はサッカー教室に通った。コーチが集合の合図をしても、息子はなかなか輪に入ろうとしない。それを見て思わず口走りそうになるもグッとこらえた。しばらくして、息子は輪に加わった。その後、練習がはじまり、息子はサッカーボールを手でもったりした。それを見て思わず声が出そうになるも、またもグッとこらえて見守った。お友達と交錯してちょっと押し合いになったときも、ノドまで出かかった言葉をグッと飲み込み、なんとか約束どおり黙って見守った。その後、息子のサッカー教室は平穏に過ぎていった。

サッカー教室が終わり、息子に「来週もサッカーに行く?それともやめる?」と聞いてみたら、「行く」といいだした。そこで翌週も同様に練習に参加し、口に出しそうになった言葉をすべて飲み込んで黙って見守るよう必死に努めた。そうこうしているうちに時が経ち、息子のサッカー教室を黙って見守ることに親もすっかり慣れたとき、息子の口から「今日のサッカー、すげー楽しかった」と満面の笑みで言われた。息子の成長を願う親として、これほどうれしい言葉はない。思わず涙が出そうになるも、素知らぬ顔で「じゃあ、来週も行くかい?」と聞くと、元気に「うん!」と返事が返ってきた。結局、息子が「サッカーに行きたくない」と言った原因は、息子の才能でもなんでもなく、「子供にハッパをかけない」ことを実践していなかった親である私自身の言動の問題であった。ユダヤ式教育、おそるべし。

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------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 11 点
内訳
文章 (1-5) : 3 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
第1章 子供の「天才」を引き出そう!
第2章 ユダヤ人が語った「天才」教育のレシピ
第3章 子供が発する危険信号と「六つの特性」
第4章 「天才」教育が伝えるもの


・書評では、簡単にまとめた3つの基本事項を紹介したものの、本書にはユダヤ式「天才」教育、7つのレシピとして、詳しく述べられている。それらを以下にまとめておく。
レシピ1:本をあげよう!本でいっぱいの本棚を見せよう!
レシピ2:子供を観察しよう!
レシピ3:見せる、体験させる、感動させる!
レシピ4:子供をのびのび、優秀に育てる三つの言葉「どう思う?」「よく思いついたね!」「いっしょに答えを探そう」
レシピ5:言葉と態度で「信じてるよ」を示そう!
レシピ6:「あなたがボス」であることを忘れずに!
レシピ7:時期が来たら、親離れさせよう!

・もし、子どもにはユダヤ人大富豪のような金持ちになって欲しいと望むなら、キャッシュフロー for キッズ (日本語版)なんてのもある。




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posted by lhflux at 12:10| Comment(2) | TrackBack(0) | 子育て | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
思い当たる節のあるエピソードで身につまされました。
頭では分かっているつもりなんですけど、実践の難しい点でもありますよね。

ちなみに、最近読んだエイミー・チュアの『タイガー・マザー』で描かれていた「中国の母親」は、真逆と言っていいほどのハッパのかけっぷりでした。
同じアジアの民族ではありますが、教育に関しては、ユダヤ式というか欧米式の方が感覚には合っていると思いました。
Posted by Taka@中小企業診断士(業務休止中) at 2011年08月21日 17:34
勝手なイメージなのですが、「中国の母親」と聞いただけで、なんかそのすごさが想像できそうでコワイです。やはり、先進国として世界をリードしてきた欧米は、教育に関して一歩先を行っている感じはありますよね。

Takaさんの書評も、最近更新頻度が落ちたとはいえ、いつも見てますのでお互いにいろんな本を紹介しあえるといいですね。「タイガー・マザー」は恐ろしそうですけど...
Posted by lhflux at 2011年08月22日 08:00
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