2011年06月26日

エピソードで学ぶ乳幼児の発達心理学 −関係のなかでそだつ子どもたち− (岡本依子・菅野幸恵・塚田-城みちる)

ある日の朝7時半頃。その日は、三歳半を過ぎた息子と保育園に歩いて向かっていた。最終コーナーを曲がり、保育園まで残すところあと百メートル程度の直線コースにさしかかったときである。急に息子の動きがピタっと止まる。そして次の一言を放った。

「あっ、おもちゃ(トミカのミニカー)を持ってくるの忘れた!」

「うっ?!」

こちらが一瞬の戸惑いを見せた瞬間、1kmも離れている家へ戻ろうとする。ここで家まで往復したら、ダラダラと歩くので1時間はかかってしまう。仕事もあるし、そんなのは親としては許容できない。先を促すためにも説得を試みる。

「さ、保育園にいこうよ。先生もお友達も待ってるよ。今日は誰がいるかなぁ?」

そんな私の説得に耳をかすワケもなく、息子の感情が爆発する。

「ヤーダ!ヤーダ!!ヤーダ!!!オモチャを取りに帰る!!!!」

そして道ばたに倒れ込んで大泣きがはじまる。俗にいう"悪魔の三歳児"というヤツである。そんなとき、散歩をしている一人の老人が通りかかった。そして息子に語りかけた。

「どうしたのかな?」

そんな語りかけを全く無視し、息子は地べたに仰向けになったまあま激しく体を揺さぶり、相変わらず大泣きしている。そんな様子をみて老人は息子に話しかけるのをあきらめ、散歩を続けた。私は苦笑いをしながら、こう説明した。

「オモチャをもってくるのを忘れたので、カンシャクを起こしているんですよ」

すると老人は私に次のような捨てセリフを吐いて立ち去った。

「ずいぶん聞き分けの悪い子だねぇ。」

思いがけない言葉を聞いて、カチンと頭にきた。怒りにまかせてその老人に殴りかかりそうになるも、なんとかコブシを抑えて落ち着いてみる。改めて冷静になってみて、よく考えてみる。「これって聞き分けの悪い子なのだろうか」。

その答えを教えを求めて発達心理学の本を手にしてみた。以下に本書について簡単に紹介してみる。


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本書は、幼児期のエピソードを紹介し、そのエピソードを発達心理学的にみるとどう解釈できるかというスタイルをとる。エピソードも身近なテーマを扱っているため、実際に子育てをしている親にとっては実感しやすく、理解しやすい。また、テーマもランダムではなく、目次にあるような6項目ごとに並べてあるため、全体的にわかりやすい構成にもなっている。教科書的ではなく、実用的であるため、子育てをしている親が発達心理学を学ぶ目的で本書を読むならば、多くの有益な情報が得られると思う。

本書の構成では心理学的状態を表すテーマごとにまとめてあるものの、ここでは「乳幼児の心の発達」という時系列的な視点にたって簡潔にまとめてみる。乳幼児の心の発達は主に次の3段階に分かれている。

1. 心の形成:
親しい人との関係を通して、他社のまねをする。自分と他人の区別がつかない。
2. 自己の発見:
自分と他人の区別がつく。自我に目覚める。
3. 他者の心の理解:
社会との関わりが増え、集団行動がとれる。

乳児は生後1年半ころまでに心の基盤を形成するようだ。この時期は"一次的感情"とよばれる、対象に対する直接的な感情が支配的であり、喜び、興味、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、恐れといった感情を身につけていく。この時期の乳児はまだ自分と他人の区別がついていないため、親や保育者といった親しい人のまねをする。例えば、母親が笑った顔を赤ちゃんにみせると、その子もまねをして笑った顔をつくったり、怒った顔を見せるとその子も怒った表情をつくる、といったやりとりがみられる。また、他の赤ちゃんの鳴き声をきいて泣き出す赤ちゃんもでてくる。自分と他人との区別がついていないために、親しい人のまねをすることで一次的感情を身につけていくようである。

赤ちゃんから成長して2歳頃の幼児期にさしかかると、自分と他人の区別がつきはじめ、自我に目覚める。オトナとなってしまった私には、はじめて自分という存在を知ったときの感情がいったいどういったものなのか、まったく記憶にない。しかし、なんとなく想像はできる。読書を通して人間的に心が成長し、これまで見えていたモノと全く違ったモノの見方を手に入れたとき、急に世界が広がってみえてくるコトがごくマレにだけれどもある。幼児にとっての自我の発見は、まさにそういう体験ではなかろうか。今まで親や保育者がいないと何もできなかった子どもが、心と体の成長に伴って、徐々に自分のやりたいことを思い通りにできるようになる。そこに喜びを感じ始めるだろう。乳児から幼児にかけて子どもは自分の成長に伴って言葉もしゃべれるようになっていき、自分の主張を相手に伝えることができるようになってくる。自分のやりたいことをやりたいようにできれば、うれしさを感じるだろう。しかしそうはいっても、社会には、やってイイこととダメなことがある。デキルことと、デキナイことがある。自我に目覚めた幼児が、自分の心の赴くままにヤリタイことを主張したとしても、いつでもその主張が通るとも限らない。その主張を親しい人に否定されたとき、また、自分の主張をうまく伝えることができないとき、幼児は激しい悲しみを覚え、泣いたり喚いたりして全身で悲しみを表現する。これが親には「魔の二歳児」として映る。

幼児はことばを覚え、社会との関わりが増えてくると、ことばを通して周りとコミュニケーションをとれるようになってくる。自分の気持ちを言葉として相手に伝えることで、自分自身の心の理解も深まってくる。本書には、ことばは、想像の道具としてはたらく。つまり、想像を展開・維持するために、ことばが用いられる。... また、ことばは、想像したことを他者と共有する道具でもある(p.168)とある。ことばを使うようになることで徐々に相手の心も理解できるようになってくる。相手の立場で物事を考えることができるようになってくる。いつでも自分の主張を通すのではなく、時には自分がガマンすることで大好きな相手が喜んでくれて、その姿をみて自分もうれしくなる。そういった体験を通して、徐々に自己を抑制する力を養っていくようだ。そして、こういった自分だけでなくそれをとりまく社会との関わりが増えるにつれて、二次的感情とよばれる、照れ、共感、あこがれ、誇り、罪、恥といった自分と他者との関係における感情も芽生えてくる。

ただし、自我の発見にみられるような自己主張の発達と、相手の立場も考えて自分がガマンするといった自己抑制的な側面の発達の仕方は異なる。自己主張の発達は3歳から4歳までの間に急激に発達していき、その後はほぼ横ばいで、わずかながらの増加となる。一方、自己抑制的な側面は、3歳から7歳にかけてゆっくりと発達する。つまり、3歳頃というのは、自己を抑制する側面よりも自己主張や自己実現的な側面が強くなってしまい、親には反抗期として映る(p.101の図)。5歳頃になれば、自己主張と自己抑制とのバランスがよくなり、環境にあわせて自分をコントロールできるようになる。その結果、友達と遊ぶことで集団行動がとれるようになっていく。3歳児と4歳児の子どもの振る舞いの違いがわかるYoutube動画があるのでリンクを以下に紹介してみる。

クリスマスに本が贈られて、「なんでクリスマスプレゼントが本なんだ!!!」と憤慨する3歳児。


その1年後に、再びクリスマスに本を贈ったら、子どもはどうするか。


以上みてきたように、冒頭で述べた出来事は3歳児にはよくある光景で、別に「聞き分けの悪い子」なワケではない。しかし、周囲から冷たい視線や辛辣な言葉を投げかけられると、それをものすごく気にしてしまう母親は多いだろう。逆に「聞き分けのいい子」というのは、親の言うことをただだまって聞くだけの、親にとっての「都合の良い子」となってしまうことが多い。本書には次のように書かれていた。日本の母親は、「反抗期がないことは後の発達に大きな影響を及ぼす」という思いを強くもち、自己主張を子どもの発達にとって重要なものと感じているが、実際には、子どもがうまく自己主張できるように後押しをするような対応をとらない。(p.100) そういうときこそ父親の出番であり、父親が積極的に子どもの自己主張を後押しするような対応をとるようにしたい。実際には難しいけれど。

最後に、子どもの反抗期に対する対応について、本書には次のように書かれていた。

母親たちは、自分自身が変わること、子どもの発達や興味関心の増大に応じてお互いに歩み寄ることによって、子どもの反抗・自己主張に適応していく。母親自身が変わることによって対立を調整するというのは、たとえば、子どもへの期待を目の前の子どもの実情に合わせて修正すること、物の配置を変えるなど物理的な環境設定を子どもを考慮して変えること、自分の苛立ちを抑える方法を見つけ出すことである。(p.97)

他人を変えようとするのではなく、自分が変わる努力をする。自己啓発本においても、よく言われる教訓である。

エピソードで学ぶ乳幼児の発達心理学―関係のなかでそだつ子どもたち
岡本 依子 塚田‐城 みちる 菅野 幸恵
新曜社
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------ lhfluxの評価 ------
総得点 (15点満点) : 12 点
内訳
文章 (1-5) : 4 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点
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目次
第1章 新しい世界へ−−移行
第2章 人や物とかかわる−−関係
第3章 自分に気づく−−自己
第4章 感じてあらわす−−情緒
第5章 世界を知る−−認知
第6章 話して伝える−−ことば


---- 気になった言葉 ----
・4歳児から6歳児を対象に、家族で旅行した経験を6ヶ月後、18ヶ月後に思い起こしてもらったところ、旅行の後、そのことについての家族の会話が多かったほど、18ヶ月たってもよく思い起こすことができた。そして、家族で会話する体験をすると、4歳児も6歳児と同じくらいよく思い起こすことができた。(p.155)
・中国で通っていた保育施設では、先生は絶対的な存在で指示に従うことが求められていました。そのためか、4歳のとき日本の幼稚園に転入した頃は、先生の指示を待って行動する様子が目立っていました。(p.193)
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自己啓発を学びたい人は、こちらのまとめをどうぞ


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posted by lhflux at 07:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 子育て | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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