2011年04月23日

幼児期ー子どもは世界をどうつかむかー (岡本 夏木)

日曜日の夕方、近くの公園へでかけると、かなりの高確率で親子バトルが勃発する。このバトルでは、おおよそ2〜3歳程度の幼児と親との間で繰り広げられる。もうすぐ4歳になる息子をもつ我が家でも、最近はかなり減ったものの、以前はよく親子バトルが繰り広げられていた。子どものいる家庭なら、誰しもが一度は経験したことがあるバトルではなかろうか。

次のやりとりを見てみよう。場面は、そろそろ家に帰ろうとするところから始まる。

父親「さぁ、そろそろ帰ろうか。」
息子「やだ。まだ遊ぶ。」
父親「日も沈んで暗くなってきたし、おなかも空いてきたし、そろそろ帰ろうよ。」
息子「や〜だ! もう一回ブランコする!!」
父親「えぇ〜?! お父さん、もう疲れたし帰りたいなぁ〜。お母さんも心配しているよ」
息子「や〜だ!や〜だ!! もっと遊ぶ!!! 」
父親「も〜う、しょうがないなぁ。じゃあ、ブランコ一回だけだよ」
息子「や〜だ!!!や〜だ!!! いっぱいブランコする!!!」

こうなってしまった幼児は、ワーワーギャーギャー大泣きして、もうどんな言葉も受けつかなくなる。そうなると、親の行動がおおよそ2つに別れる。忍耐力のある親は、子どもを遊ばせて、外が真っ暗になって見えなくなるか、子どもが飽きるのを待つのである。一方、待つことなんてできない、という親はリーサルウエポンを使う。泣き叫ぶ子どもを抱きかかえて(もしくは罵声を浴びせながら)、チカラづくで強引に連れて帰るのである。

ただ、この力にモノをいわせた「リーサルウエポン」の使用には、ちょっと注意が必要である。力で親が勝るのは明らかであり、その力を行使して子どもを従わせてしまうと、知らず知らずのうちに子どもは「力こそすべてだ」と思うようになる。さらに親は、「しつけ」と称して折檻する場合もある。この「しつけ」がエスカレートして幼児虐待へと移行するケースも多いらしい。

ほかに何か良い手がないだろうか。そう悩んでこれまでに読んだビジネス書を振り返ってみると、こういうときに威力を発揮するのが「コミュニケーションスキル」だということに気づく。コミュニケーションの基本といえば「相手の立場で考える」ことである。つまり、この場合では、「子どもの立場になって考える」ということが親には必要なのだろう。

といっても、幼児がいったい何をどう考えているかなんて、親に果たして解るのだろうか。本書を基に以下にまとめてみる。

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本書は、タイトルの副題にあるとおり、幼児が世界をどのようにつかんでいるかを考察した、哲学書に近い内容である。ここでの幼児は2歳から6歳程度を想定しており、いわゆる「魔の二歳児」だとか「悪魔の三歳児」といった幼児期に注目している。幼児の思考を理解しようとすることに焦点があるため、幼児への接し方を説いた方法論については全く触れられていない。表現が抽象的で、著者の価値観をあまり押し付けたりはしない分、よく考えながら読む必要がある。がんばって読解していけば、幼児もいろいろと悩むことがあって大変なんだなぁ、という気持ちになれるので、私は本書をけっこう楽しめた。

本書の主な流れとしては、幼児教育についての考察をメインに、幼児への「しつけ」や幼児の「遊び」について紹介している。しかしここでは、「幼児の思考」という別の視点でまとめてみたい。

本書によれば、幼児は「自己の実現」と「他者との関与」という、相反する2つの感情をどうやって統合していくか、苦悩しながら成長しているらしい。

「自己の実現」とは、簡単にいえば、「自分がやりたいことをする」、ということである。あえて言うほどではないが、子どもは遊ぶことが大好きである。子どもは基本的に好奇心が旺盛で、公園にいっても遊具や砂場で遊んだり、草花や木を観察して楽しんだり、そこで遊んでいるお兄さんお姉さんのマネをしたりと、興味が尽きない。乳幼児の成長をみていると、ほんの1週間前までは歩くことがやっとであったのが、数週間すると走り回ることができるようになったりする。そういった成長に伴って、幼児の中でもいろいろとやってみたいことが増え、言葉で訴え、欲しいものが増えていく。こういった自己の欲求を満たすことを本書では「自己の実現」と呼んでいる。

幼児も大きくなっていくにつれて「自己の実現」もヒートアップしていく。本書では次のような例が挙げられていた。見ているおとなが肝を冷やすような高い所によじ登って飛び降りてみたり、かなりの坂をものすごいスピードをつけてスケートで駆け下りたり、ブランコの縄をぐるぐるねじってから乗り、縄のねじれが一挙にもとに戻るときのはげしい回転を楽しんだりします。また「事故だ」と言いながら電車ごっこの三輪車同士をぶつけ合っている時も、実際は身体的なスリルを味わっていることもあります。(p.90) いずれにせよ、幼児は自分の好奇心に従って、いろいろと試しているのである。

一方、幼児も成長していくにつれて、社会との関わりが増えていく。例えば、公園で自分が遊びたい遊具をお友達が使っていたり、滑り台の順番を待ったり、公園にいたお友達と一緒に遊んだりと、成長するにつれて自分一人だけではなく他者と交わる機会が増す。これらが「他者との関与」である。

「他者との関与」は、「社会性」とか「倫理観」といってもよいかもしれない。幼児は社会で生きていく以上、社会のルールを守り、場合によっては相手の要求も受け入れていく必要がでてくる。時には相手の要求を満たしてあげることで、相手から感謝されたり喜ばれたりすることで、うれしさを感じることもある。また、父親や母親、祖父母や保育者等と関わることによって人それぞれの欠点や多様な人間性に触れる。こういった共同生活を通して、子どもは「人は個々に性格をもつ」ことを知り、さらには自分という存在を位置づけてゆく過程にもつながっていく。こういった「他者との関与」を子どもが学ぶ過程を本書では「しつけ」と呼んでいる。

幼児は、これら「自己の欲求」と「他者の欲求」との間で心が揺れて苦しむようだ。本書によれば、子どもはしつけの中で、いちばん好きな両親や先生が自分に課してくる要請と、自分の欲求との対立に苦しみながら、そしてその中で親や先生との共同生活をどう創り上げてゆくかに悩みながら、人間の生き方の基本を学んでゆきます(p.30)と書かれていた。つまり、乳児期のころは自分の欲求を満たすだけの「自己の実現」だけで許され、親も喜んでくれていたものの、2歳くらいの幼児になって他人とコミュニケーションがとれるようになってくると「他者の欲求」にも答えなければ、大好きな親に喜んでもらえなくなってしまう。この狭間で幼児は揺れ、幼児も苦しんでいるようだ。そう聞くと、2歳児や3歳児もいろいろと苦悩しているんだなぁ、と思ってしまう。

つまり、幼児期は自己中心的な物事の捉え方から脱却し、社会性を身につけていくための大切な時期となる。自分が他人に対して説くことは、同時に、(あるいはそれ以上に)自分の守るべきことであり、他者への要請は自己への命令でもあることを、幼児は知ってゆかねばなりません。(p.185) そしてこの言葉は、なにも幼児だけでなく、我々おとなにも当てはまる。しかし、著者は次のように嘆く。他人には要求する道を自分には適用しない点になると現在のおとな、ことに権威をちらつかせるおとなほどひどいのが現状です。(p.185) この言葉にあるようなオトナにならないよう自分も注意したい。

幼児の心を理解したいと思う人は、本書を考えながら読むと理解できるかもしれない。
幼児期―子どもは世界をどうつかむか (岩波新書 新赤版 949)
岡本 夏木
岩波書店
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------ lhfluxの評価 ------

総得点 (15点満点) : 12 点
内訳

文章 (1-5) : 4 点, 内容 (1-5) : 4 点, 感動 (1-5) : 4 点
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序章 「幼児期」の再建
I章 なぜ「しつけ」か
II章 なぜ「遊び」か
III章 なぜ「表現」か
IV章 なぜ「ことば」か
終章 内なる幼児期


--- 気になったコトバ ---
「能力主義教育」でもっとも重視されるのは、文字通り「デキル」ということです。「デキル」ことはよいことであって、「デキナイ」ことはよくないこととされます。そして大事なのは、デキルにしても、それが「ヒトリデ デキル」ことです。他人に依存すること、他人に「タスケラレル」ことはよくないこととされます。加えて「ハヤク」することが目標であり、「オソイ」ことは悪いこと、なくさねばならなぬことです。特に能力主義と情報処理の結びつきは「能力至上主義」を強化し、「オソイコト」「時間をかけること」はもっとも忌わしい性質として位置づけられます。「ヒトリデ ハヤク デキルコト」これが能力主義のスローガンです。(p.9)

励ましのことばは特に力になります。... 「コワクナイ、コワクナイ」とか、「イタクナイ、イタクナイ」、「ダイジョウブ、ダイジョウブ」、「ガンバッテ、ガンバッテ」など、親や先生からかけられることばを自分に取り入れ、自分で自分を励ますことができるようになった時、子どもは新しい世界を、自分の力できり拓いてゆくことが可能になります。(p.186)


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posted by lhflux at 09:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 子育て | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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