2010年09月05日

ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき (レイ・カーツワイル)

総得点 (15点満点) : 15 点

内訳
文章 (1-5) : 5 点, 内容 (1-5) : 5 点, 感動 (1-5) : 5 点

2010年9月号のクーリエ・ジャポンに"シンギュラリティ(特異点)"なるコトバが出てきた。その記事を読んでから、シンギュラリティという考え方に多大なる興味をもつようになってしまった。その考え方を提唱しているのが、本書である。

まず本書を手にして最初に驚くことが、その分厚さである。一瞬、百科事典かと思わせるほどのボリュームと威圧感で購入者の心を試す。見事に返り討ちにあった私は、本書の購入をためらい、その10分の1程度の厚さしかない「レイ・カーツワイル 加速するテクノロジー」という本を買ってしまった(みんビズ!の書評はこちら)。しかしその本は、薄いだけあって内容的に物足りず、結局、本書を購入する決心をつけたのであった。さあいよいよ覚悟を決めて本書を購入するぞといきり立ったものの、第二の関門が待っていた。大型の書店で購入しようとしても、なかなか在庫がないのだ。

出版社はよっぽど売る気がないんだな〜、そう思ってなんとか手にいれた本書を読むと、あることに気づいた。出版社は、本書がベストセラーなんぞになってシンギュラリティが有名なってしまうことをきっと恐れたのだ。たしかに、本書はあまりに刺激的すぎる。まるでSF小説を読んでいるかのような感覚に見舞われる。しかし、SF小説と違うのは、科学的根拠に基づいて論理を展開しているため、ただの空想と片付けることができない点である。もし本書が広く一般の人に普及してしまったら、社会問題にまで発展してもおかしくない。そこで出版社は、600ページもある本書をあえて一冊にまとめることで、見た目に威圧感を与え、極力、本書が売れないように仕向けたと考えれば納得がいく。

それはさておき、以下に本書で述べられていた科学的な視点を紹介してみる。


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まず、シンギュラリティというアイデアについて。

その基本的な考え方は、テクノロジーが指数関数的に進化していることである。例えば、ハードディスクの容量や、usbメモリの容量など、1年経つと同じ値段で倍の容量のモノが買える。つまり、こういったコンピューター関係のテクノロジーは年間に倍のスピードで進化しているのである。私が5年前に購入した2GBのUSBメモリなんて、当時は2万円もしたのに、いまじゃ16GBが数千円で売っている時代である。

こういったテクノロジーの指数関数的な変化は今後も続くと考えられる。というのも、今あるテクノロジーを利用して、次のテクノロジーを開発するため、進化のスピードが遅くなることはなく、むしろ時とともに加速していくからである。

例えば、日本の歴史を振り返ってみよう。1600年ごろに江戸時代が始まって1860年ごろまでの約260年間続いた。この間、人間の輸送手段はもっぱら馬であった。しかし、1860年からたった150年しか経過していない現在をみてみると、人は車に乗り、電車に乗り、飛行機で空を飛び、宇宙にまで行けるようになった。江戸時代と比べてしまうと、近年のテクノロジーの進化はまさに驚異的といえる。

著者のレイ・カーツワイル氏は、こういったテクノロジーの進化を収穫加速の法則とよぶ。そしてこの勢いでテクノロジーが進化し続けると、2045年には、今の全人類に匹敵するだけの知能をもったインテリジェント・マシンが完成すると予言する。その先は、今の我々の知識では到底考えられないような、そんな未来が到来するという。このときがシンギュラリティの到来であり、これ以降は今の人間がいなくなったとしても、人類の知能をもったインテリジェント・マシンが次々と新たな知能を生み出して行くことになる。

このインテリジェントマシンを作成するための鍵となるのが、コンピューターによる脳のシミュレーションである。もし、人間レベルの知能と、コンピュータがもともと得意な、速度、精度、記憶共有の能力を組み合わせれば、ものすごいことになるだろう。(p.165) 例えば脳にハードディスクを組み込むことができえば、抜群の記憶力を発揮することができるだろうし、記憶障害も克服できる。こういった技術を本書では脳のリバースエンジニアリングというキーワードで説明する。

そして、脳のリバースエンジニアリングに必要な技術として、リバーシブルコンピューターの開発をポイントとしている。リバーシブルコンピューターの基本的な考え方は、中間の結果を全て保持して、計算が終わったときにアルゴリズムを逆向きに走らせたら、開始した地点に行き着き、エネルギーは一切使わず、熱も一切発生していないことになる(p.142)。私はすべてを理解できたわけではないが、発熱しないとなるとものすごく小さいCPUが創れることになるらしい。そして、IBMがリバーシブルコンピューターの開発に着手しているという噂まである(記事はこれ)。

とはいっても、コンピューターに人間の感情が理解できるわけがない、という反論が思い浮かぶかもしれない。しかしこれについても、現在の脳科学で人間の感情の仕組みが研究され始めているようだ。本書には、愛情や怒りや悲しみ、性的な欲求などの高次の感情を覚えるとき、紡錘細胞のある領域が活発化する、と書かれていた。つまり、この細胞の解明が感情の仕組みの理解に役立つ可能性がある。また、紡錘細胞は新生児には存在せず、四ヶ月目ぐらいになってようやく出現し始め、一歳から三歳までの間に著しく増える(p.234)と書かれていた。子供の成長を観ていると、たしかにこの1歳から3歳ごろまでの時期は第一次反抗期に相当していて、「 魔の二歳児、悪魔の三歳児、天使の四歳児」と例えられるように、子どもの感情が2歳から3歳にかけて顕著になる。こういった研究によって脳の仕組みの理解がすすめば、やがて機械も感情を理解できるようになる日が訪れてもおかしくない。

最後に、科学者として気になったコトバが3つほどあったので、それを引用して終わる。

発明が失敗する理由は、ほとんどの場合、研究開発がうまくいかないからではなく、タイミングが悪いからだということがよくわかった。発明はサーフィンによく似ている。波がいつ来るかを予測し、ちょうどよいタイミングで乗らなければならないのだ。(p.7)

科学者や技術者の多くは、わたしに言わせれば「科学者の悲観主義」に侵されている。たいてい、目の前にある問題の難しさや複雑な細部に気を取られすぎていて、自分の研究がもつ長期的意義を見失ったり、研究分野をより広い視野で捉えることを忘れてしまったりしがちだ。(p.25)


・知識は、どのような形態のものも貴重である。音楽、美術、科学、テクノロジー、そしてわれわの脳と身体に記憶された知識もかけがえのないものだ。
・情報は知識ではない。世界には情報が溢れており、知能の役割は、その中から顕著なパターンを見つけだし、それに基づいて行動することだ。(p.492)


ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるときポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき
レイ・カーツワイル 井上 健 小野木 明恵 野中香方子 福田 実

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目次
プロローグ アイデアのもつ力
第一章 六つのエポック
第二章 テクノロジー進化の理論ー収穫加速の法則
第三章 人間の脳のコンピューティング能力を実現する
第四章 人間の知能のソフトウェアを実現するー人間の脳のリバースエンジニアリング
第五章 GNRー同時進行する三つの革命
第六章 衝撃
第七章 わたしは特異点論者だ
第八章 GNRの密接にもつれあった期待と危険
エピローグ

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posted by lhflux at 08:01| Comment(0) | TrackBack(0) | サイエンス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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